小田急HE車は省電力か?
出典: CLUB103ウィキ
高性能・高経済車として1960年1月に登場した小田急の2400形急行形電車(HE車)ですが、MT半数の編成で高性能な運転ができるような車両だったようです。
同じMT半数と言うことで、103系と比較されることも有るようですが、103系の設計コンセプトとは全く違うように思います。そこで103系が一番気を遣った省電力性能という点でHE車を見てみたいと思います。
特に当時はオール電動車方式が主流である中で、MT半数によるイニシャル&ランニングコスト削減を目指した経済性であったわけですが、半世紀経った今、経済性に省エネが含まれるのはもはや当たり前になった世代の者から見ると「高経済車」の意味合いを勘違いするケースも多いのではないかと思う。
要は、そういう部分をはき違えて「HE車はMT半数で高性能だったのに103系は同じMT半数でもその程度の性能か!」と電力消費量を全く配慮しない発言を減らしたいわけだ・・・
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設計条件
小田急電鉄車両課長の山村秀幸氏が電車1960年4月号・5月号に下記の通り記している。
- 在来の4両固定急行車と同等以上の収容力を有し、また、同程度以上の接遇並びに客扱上の設備を有すること
- 全編成長は在来の4両編成車両と同等とする
- 性能は満空にかかわらず、加速度は3km/h/s、常用最大減速度は4km/h/s非常減速度は4.5km/h/sとし、最高速度は110km/hとする
- 変電所の尖頭負荷の軽減を考慮し、力行ピーク電流は在来の急行車以下とする
- 強度剛性は在来の急行車程度とする
- 在来の急行車との連結運転を可能にする
この条件に合致するために、車両の諸元としては下記のように決められたようです。
- 主電動機定格出力 340V 392A 120KW(75%界磁)
- 歯車比 92/15 = 1:6.13
- 制御装置 バーニア制御・応荷重装置付
- 自重 M1車=33.37t M2車=35.30t Tc車=20.22t 編成合計(4両)=109.11t
- 定員 M車155人 Tc車117人 編成合計(4両)=544人
この電車の特徴を今から見ていくのですが、120KWクラスの主電動機に、歯車比が1:6.13ですから103系の出力増強タイプと言う見方もあり、ちょっと興味深いですね。電車を動かすには、主電動機がどのような働きをするのかが大事になってきます。時速何キロではどれくらいのトルクがあるのか、その際の電流量はいくらなのかetc.
そこで、力行ノッチ曲線を見ていこうと思います。
ノッチ曲線から性能を見る
| 2400形力行46ノッチ曲線 | |
少し見にくいと思うが、左の目盛は速度で40マス刻みに10km/h毎、右の目盛は引張力で20マス刻みに2000kg/carとなっている。編成中の電動車は2両あるので、この引張力を2倍にして加速力の計算などに用いる。
左上から右下への曲線は、制御ノッチ毎の速度カーブで、電流がどの程度流れていたら何km/hで走るかを示している。下の方のかたまりは直列制御域で、真ん中くらいに左上から6本降りてきてるのが並列制御域、その上に何本かあるのが弱め界磁域、弱め界磁域の一番上のが弱め界磁最終段と呼んでいる。また、左下から右上に伸びる2本のカーブは引張力カーブで、上が全界磁時、下が弱め界磁時の引張力となる。
まず、2400形の主電動機の1時間定格時の引張力を求めてみよう。2400形の主電動機の1時間定格は392Aで120KWとなってるので、392Aの近似値である390Aの縦線と引張力カーブの全界磁の交点を見る。右の方の目盛を見ると、だいたい4700kg程度だろうか?編成だと2倍にするので、1時間定格での引張力は9400kg程度となる。103系が330Aで8650kg程度だったと思うので、さすがに出力をあげているだけあって引張力も大きい。
基本的に、全界磁の間は制御器のノッチ操作のおかげで、引張力が一定として計算する。本当はノッチアップ時に尖頭電流が流れてそのたびに引張力が変わるんだけど、そういうのをイチイチ計算すると大変なので、全界磁は直列・並列ともに引張力一定と言うのが定則。
具体的に言うと限流値の値まで電流が落ちたら、ノッチをあげて(抵抗を抜いて)流れる電流を増やすのだけど、だいたい限流値+20Aを平均起動電流という形で計算するようだ。その後、弱め界磁域に入ると、さらにノッチアップ時の電流の高低が激しくなるので、平均起動電流は+20A、限流値から見ると+40Aに設定して計算するらしい。最後の弱め界磁最終段に達したら、後は速度毎の引張力をノッチ曲線から拾っていく。
そんなことなので、1時間定格でこの主電動機を用いた場合、390Aの縦棒と並列制御域のカーブは時速36km/h程度で交わっているので、時速36km/hまでは引張力一定で走ることになる。世間で言う「起動加速度」というのは、この引張力一定のエリアでの加速度を示す。
加速度を計算しよう
1時間定格の392Aを限流値と考えた場合、平均起動電流は+20Aなので大まかに410Aと言える。力行ノッチ曲線の410Aの縦棒と、全界磁の引張力曲線の交点を見ると4900kg/carほどで、先ほど同様に編成には2両の電動車があるので2倍して9800kgが2400形4両編成の1時間定格での引張力となる。
引張力から走行抵抗を差し引くと実際の運転時の加速力(kg/t)が出る。電車の場合、その加速力を30.9で割れば加速度(km/h/s)が出るので、後は公式に当てはめるだけだ。
その公式だけど、はっきり言ってめんどくさいので、エクセルに数式を入れている。引張力だけど単位のkgをkg/tに変えるには、9800kgの引張力を使って何トンの編成を動かそうとしているか考えれば良い。2400形の空車時の編成重量は109.11tであるから9800÷109.11で89.8kg/tとなる。
走行抵抗は単位が同じkg/tで、計算式は1.32+0.0164V+((0.028+0.0078(n-1))V^2/Wという式。Vは速度、nは編成両数、Wは電車総重量。昔の公式は電動車の重量と付随車の重量をそれぞれ分けて計算していたようだけど、こっちの式の方が最新のようで計算もしやすいのでこっちを使っている。そうそう言い忘れたけど電車総重量には乗客の重さも含まれる。国鉄基準だけど1名あたり60kgを加算することになっている。だから空車でなくて定員の場合2400形4両編成だと544名×0.06tで32.64t重量が増えることになる。
2400形だけど空車で1時間定格の390Aを限流値とした場合(平均起動電流は410A)の起動加速度をエクセルで出すと2.86km/h/sとなる。公称値の3.0km/h/sを出そうとすると、平均起動電流を420A程度にすれば良いようなので、限流値設定は1時間定格を上回る400Aになるようだ。
300%乗車時の場合
この電流値は空車で考えた場合なんだけど、2400形には応荷重装置がついていて、空車でも300%乗車時でも同じ加速力を得るように限流値の値を勝手に変えてくれる。裏返せば空車の89.8kg/tという引張力を100%乗車時でも300%乗車時でも出せれば良いわけで、そのためにはモーターに電流を多く流して回転力を増せば良い。
300%時でも89.8kg/tという引張力を出すには何アンペアの電流を流せば良いのかは、先の力行ノッチ曲線から最終的に見ればわかるのだが、その前に少し計算しておかなければならない。まず300%の乗客の重量を計算しなければならないが100%乗車時の乗客重量が32.64tであるから、300%時はそれを3倍にすればよい。つまり32.64×3=97.92tが300%乗車時の乗客重量と言うことになる。
で4両編成の車両重量が109.11tだから乗客重量と合わせて207.03tが300%乗車してる時の列車全体の重さになるから加速度2.86km/h/sの場合89.8kg/t必要になるので、207.03×89.8=18591.3kgの引張力をモーターが出せれば300%乗車で2.86km/h/sの加速度を出すことができます。
18591.3kgは2両の電動車での話なので、1両あたりはこの半分の9295.7kgとなります。この数値を力行ノッチ曲線から読み取ると680Aの電流を流せば良いことになります。
省電力か?
限流値が660Aということは、直列の段階では660Aの電流が流れることになり、並列の場合はその倍である1320Aの電流が流れます。そして、弱め界磁に入ると並列の1.1倍程度の電流が流れると言われていますから1450A程度でしょうか?
応荷重装置を使って乗車率300%の場合、弱め界磁最終段になるのは時速30km/h程度ですが、それまでのピーク電流はこのように非常に高いものです。もちろん、時速30km/hを越えてからは弱め界磁最終段になりますので、流れる電流は減っていきますが、ピーク電流はかなり高いと言えます。
HE車の場合は、これまでのオール電動車編成に比べてMT半数で同じ程度の性能を有すことが目的の1つですので、ピーク電流については、今までの編成よりも減ったというわけではないのですね。
MT半数にすることで、保守なども低減できる点が経済性の高いという理由であって、省エネルギーであるから経済性が高いというわけではなさそうです。
この辺もMT半数=経済的という短絡的な考えだと勘違いするのに、それが大きく伝えられてる点で正確な性能判断ができる環境に今までは無かったのではないかと思います。
(書きかけです)
