101系が高加減速・高速という嘘

出典: CLUB103ウィキ

103系電車を語る上で101系電車の歴史や性能を理解する事はとても大事な事だ。101系が何の問題もなく運転できるのであれば営業開始のわずか2年後に新形通勤電車を設計する事など無かっただろう。

今回は「嘘」という過激な表現を使っているが、要はモハ90は試作車と量産車以降では性能が変わっているのに、変わる前の高速運転に強い状態を引き継いで101系の特性として説明するのが不適当という点が言いたいわけだ。

ただし「高速」の定義をどう取るかでも考え方は変わってくる。つまり高速域まで達する時間が早いことも高速と称せる[1]ので、必ずしも速度が高い時点での加速度をして高速と言うわけではないが、ここでは時速80km以上での加速度の優劣という意味で「高速」を使わせて頂いた。趣味誌などでも「高速」とあっても前後の脈略からその定義をどう使ってるか皆さんが判断してくれれば良いと思う。

目次

趣味誌での記述

101系は専門外だったので、あまり詳しくチェックできていないが、パッと見た感じでも下記の記事がある。

  • 鉄道ピクトリアル
    • 1987年11月号 特集:101系通勤形電車
    • 2002年11月号 特集:101系電車
  • レイルマガジン
    • 1984年12月号 通勤電車カタログ 101系
    • 1988年 6月号 特集:去りゆく101系通勤電車
  • 鉄道ファン
    • 1966年 2月号 101・103系新性能通勤電車
    • 1971年 5月号 国鉄鋼製電車2-1 101系
    • 1971年 6月号 国鉄鋼製電車2-2 101系
    • 1971年 7月号 国鉄鋼製電車2-3 101系
    • 1984年 9月号 特集:101系ものがたり
    • 1998年 5月号 特集:4扉通勤形電車の軌跡

モハ90試作車と量産車の性能差

モハ90形通勤形電車は全電動車編成という事で非常に高い性能を有していた。
空車時と乗車効率250%時の限流値340Aでの性能を下記に示す。なお応荷重装置を使える形式でも限流値は一定としている。103系は低速での引張力が大きいので空車時は320Aと少し落としている。(340Aはモハ90試作車の応荷重装置を使った場合の空車時の設定値)
速度距離曲線 空車時
拡大
速度距離曲線 空車時
速度距離曲線 250%乗車時
拡大
速度距離曲線 250%乗車時
どちらのグラフも左端の赤線がモハ90試作車なのだが、時速100kmに達する距離は空車時800m・205%乗車時1400m程度であり、他の形式が軒並み70km/hを越えたあたりから頭打ちになる中で高加速を良く維持していることがわかる。
それに対してモハ90量産車の方は10Mという同条件でも試作車に比べ100km/hまでの到達距離で400m(250%時750mほど)ほど余計にかかっている。
なぜだろうか?
それは試作車の付けているモーターがMT46であり、量産車の付けているモーターがMT46Aだからである。
上記であげた趣味誌の約半数くらいが、試作車と量産車との変更点の一つとして、当初予定していた3.2km/h/sの起動加速度を達成できなかったので、回転力を10%増にしたMT46Aに変更したことについて説明はあるが、回転力を上げたために高速性能が落ちたことには言及していない。
「モハ90試作車で使っていたMT46は高速性能を犠牲にして低速トルクを増したMT46Aとなって量産車に搭載されていく」という感じの説明だとトレードオフがよくわかって良いのだが、現状の趣味誌の説明ではMT46に改善を加えて低速トルクを増したとしか読めないため、そこに101系はモハ90試作車同様に高速運転ができるという誤解が生じているのではないかと考えている。
特にモハ90試作車は、台車等を振り替えて高速試験で時速135kmを出した実績もあり、量産車との性能差が正確に伝わっていなければモハ90(101系)の高速性能は高いと感じる部分があるかもしれない。
しかし現実は、速度・距離曲線グラフを見ればわかる通り、高速性能が高かったののはモハ90試作車のみであり、量産車以降は10M編成が103系の8M2Tと同程度の高速性能だったり、6M4Tがモハ72形の6M4Tより高速の伸びが無かったりというのが、雑誌の記事だけでは隠れて見えない本来の性能であったと言える。
下にMT46とMT46Aの力行ノッチ曲線を示す。
:MT46ノッチ曲線 :MT46Aノッチ曲線
図にも注釈を入れたが、時速100kmで比較するとMT46のユニットごと引張力は2400kgあるのに対してMT46Aは1300kgしかない。
加速度は引張力の合計を編成の重量で割ってトン当たり何kg引っ張れるかによって決まる。
そこから、その速度に応じた走行抵抗を差し引いたものが加速力になるのだが、これが0だと速度を上げる為の力が無いことになる。この状態を均衡速度と言う。
0より大きければ、速度を更に増やそうとする力がある訳で、その時点での加速度(km/h/s)は加速力÷30.84[2]で出る。
よって編成重量(乗客数も編成重量の一部)が同じであった場合、加速が良いか悪かは引張力が大きいか少ないかで判断できる。
上図より5ユニット時の引張力の比較はMT46が12000kg(2400×5)でMT46Aが6500kg(1300×5)になるので、明らかにMT46搭載のモハ90試作車は高速での加速度が高いと言えるわけだ。
もちろん機械物なので、計画通りの性能が出せなかったりするので、何が何でもこれを基準にする必要は無いが、特に何かと比較する場合は条件一定の状態でないと正確な比較はできないので、このような図表を用いて計算値を比較するという手法は大事ではないかと考えている。
これらの比較が今までほとんど語られておらず、どちらかというと主観的な記述が多かったので、変な先入観が植え付けられたような気がする。
また、こういう事を元に話を進めると、いろんな可能性も見る事ができる。たとえば、上記を変形するとMT46の6M4T(編成での引張力7200kg)とMT46Aの10M(編成での引張力6500kg)が時速100km程度であれば同じ性能であったとも言える。
実際の運転に際してはM車が減った事で電気ブレーキ力が低下するので、10Mと同じ減速度を6M4Tで達成できるかどうかはわからないし、試作車の方が低速での加速度が低いので、運転曲線を書いた場合に、どういう条件でどうなるかはわからない(不定要素が多すぎるので)けど、こういう事が堂々と言えるのもきちんとした計算の元に数字を出して比較できる強みと思う。

各誌の量産車変更点の説明

各趣味誌がどのように記述してきたかを並べてみたが、下記の通り性能不足が指摘された加速度を是正するためのトルクアップについては直接的な改善点であるから記述されるケースが多いが、その改善を施したことによる副作用(高速での引張力低下)については触れられていない。

  • 鉄道ピクトリアル1987年11月号
量産車の主回路機器は、試作車の使用実績において加減速性能が予定性能を下回ったため、表-2に示すとおり一部機器の改良等設計変更が図られている。以下に主要点を示す。
(1)主電動機は、定格回転力の増大および風道の改善等を図ったMT46Aとした
  • 鉄道ピクトリアル 2002年11月号
試作車が予期した高加減速度を出せなかったことから、主電動機の定格回転力を10%アップ
  • レイルマガジン 1984年12月号
主な変更点は、主電動機はトルクを大きくしたMT46Aに変更
  • レイルマガジン 1988年 6月号
主電動機は試作車では加速性能が当初の予定を満たさなかったため、主極巻数を増すなどの変更を行ったMT46Aとした
  • 鉄道ファン 1966年 2月号
試作車の加減速性能が目標値に対して若干不足気味であったことなど、多少の修正を必要としたため、量産車に対しては下記のような設計変更が行われた
*主電動機(MT46形)の特性をトルクが大きくなるように変更した(新形式MT46A形)
  • 鉄道ファン 1971年 5月号
主電動機界磁の巻数を若干変更し、MT46Aとなった
  • 鉄道ファン 1984年 9月号
33年早々、中央快速線に順次姿を現した量産型は、MMがMT46Aに
  • 鉄道ファン 1998年 5月号
各種試験の結果、主電動機、台車など広範に検討され、性能の補正が行われて量産車に反映、主電動機はMT46A形

実際の差

実際に営業運転するとどの程度の差がでるものなのだろう?
ここには記していないが、試作車と量産車の時間・距離曲線を比べると、試作車は1300mの地点まで量産車に先を越される。
上の速度・距離曲線でもわかると思うが、時速75km程度で試作車は量産車と同じ速度になり、そこからは徐々に量産車を追い上げる。
グラフからその時点の距離は520m程度であるから、追い越すには更に800m近くも走らなければならない。
だから、どこで物事を見るかで答えが大きく変わってくる問題なのだ。
実際にこの差であれば、試作車の高速性能をフルに活用できたような区間は少なかったのではないかと思う。
だから逆に、高速性能を減らして低速トルクを増やしても、あまり目立った問題にはならず、趣味誌も高速性能が落ちている事実については書かなかったのではないかと思われる。
これらは他の形式にも当てはまることで、時速60km程度から加速が鈍ってくるのはグラフを見てもらえばわかるとおりなんだが、70km/hや80km/h時の72形・101系・103系の6M4Tなんてほとんど同じ性能と言える。
もちろん、細かく計算したら「○○系の方が△△秒速く走ってる」とか出るだろうが、あくまでもこの図表は理論値である点を忘れてはもらっては困る。
実際の運転では様々な抵抗がかかってくるわけで、この通りに走るほうが難しいという点は、このような図表を用いて説明する上ではしっかりと理解しておく必要があるだろう。
いずれにしても、量産車と試作車は実運転上では試作車の高速性能を試す場面が少ないために差異はあまり感じれなかったと考えられるが、図表からも試作車の高速性能が高かったことは明かと言える。


問題は

趣味界全体に言える事ですが、特に
  • 車両の性能を示す統一した指針が無い
  • 車両運転工学に基づく理論が趣味誌などでも紹介されることが少ない
  • 体験談をそのまま鵜呑みにする読者が多い
等により、正確な評価がされなかった形式も多かったのではないかと感じる。
例えば「加速度3.3km/h」と書いてあった場合、時速100kmまで何秒で走れるでしょう。
答えは「そんなのわからない」です。
車両に乗客がどの程度乗っているかで、上の空車と250%乗車時のグラフのように、かなり変わってきます。
その情報すら今までの趣味誌には掲載されていなかったのでは無いでしょうか?
更に、この加速度は、時速何キロまでの話でしょうか?
平均加速度であれば、単純に100÷3.3でおおよそ30秒と計算できますが、通常はある速度[3]まで加速度は一定で、そこから加速度は落ちてきます。
速度が高くなれば走行抵抗も増えますし、電動機の回転力も落ちてきますから。
ですので加速度一定となる速度を超えたあとの加速度がわからなければ、時速100kmまで何秒かかるなんて計算できないのです。
一例を挙げると、103系の限流値が330Aの場合、全界磁から弱め界磁に移るのは約時速34kmです。
時速34kmまでは加速度一定と言えるわけですが、そこからは徐々に加速度が落ちていきます。
更に、限流値を変えると、この弱め界磁に移る速度が変わってきます。
応荷重装置を使った場合の103系冷房車の300%乗車時の限流値は470Aですが、その場合全界磁から弱め界磁に移るのは時速28.5km程度です。
このように、条件を提示してもらわないと、計算自体ができないのです。
しかし、今までの趣味誌に、電車の加速度を説明する場合に編成のMT比や乗車率、限流値などが書かれていたことがあったでしょうか?
無いんですよ。
だから、正確に比較できなかったわけです。
101系と103系どっちが速い?でも示しましたが、103系の方が101系よりも速いのですが、今までのどの文献にもそのような記載は無いですね。
特に250%乗車時での101系6M4Tの走行曲線は非常に苦しいのですが、なぜ今までそういうのが出なかったのかと言うと103系が性能を落として走っていた事実を知らないからなのですね。
今まで、上に羅列した事柄が趣味誌ででも語られてきたのであれば、かなり車両の評価というのも変わってきたのではないかと思う。
少なくとも、このwikiでは、条件を一定にして比較することで、今まで推測でしか議論できなかった事例なども紹介していきたいと思う。

脚注

  1. この定義だと下手したら103系も高速になってしまう
  2. 加速度α(m/sec/sec)を実用単位であるA(km/h/sec)で表すと、α=A÷3.6であるので、F=1000/9.8 × A/3.6 ≒28.35Aだが、それに歯車などを回すための力を電車の場合約8.8%加味し30.84Aとなる
  3. 全界磁の間