電車の加速度って何だ?

01 はじめに

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加速度の比較、それじゃダメだ

 良く鉄道雑誌に「起動加速度3.3km/h/s」などと記載があると、鉄道ファンはその数値のみを追いかけ、その数値で比較して優劣を語ろうとする。しかし、この起動加速度なるものは、とってもアバウト。
 この数値だけで比較しても、正確に優劣を決める事などできないのだ。

その加速度は何キロまで続くのか?

 モーターの出力は回転力×回転数で表されるので、同じ出力のモーターを低速での加速度を高めるために低速トルクを高める設計にすれば高速での回転数は落ちてしまう。また、その場合、定格速度と呼ばれる全界磁時の定格電流での速度は低くなってしまう。その速度以降は加速度を維持できずに少しずつ遅くなっていくのだ。

その加速度は車両に何人乗ってる時の値なのか?

 加速度を計算するには、モーターの回転力から導き出した引張力を列車の乗客の重量も含めた総重量で割って求めるのだが、当然モーターの引張力が同じであれば、列車が軽い方が加速度は高い値になる。
 乗客の重さは国鉄では一人60kgで計算するため、定員が140人の車両に定員分乗客が乗っていたら、車両の重さ以外に乗客の重さが1両あたり8.4tも余計にかかることになるのだ。当然200%乗車だとその倍で16.8tになるし、国鉄の1960年代と言うのは300%も視野に入れていたので、積車の300%だと実に25.2tもの重量が車両の重さ以外にかかってくる。
 だから、当然乗車率というのは過速度計算にとって必要不可欠なものなのだが、趣味誌に記載されている加速度と言うのは、空車なのか積車なのか不明だ。ただし、今の車両は応荷重装置を用いて、荷重によらず加速度を一定にする機能がある。国鉄車では1960年代だと103系しか使っていなかった代物なので、国鉄で103系と他の形式を比較する場合は、何パーセント乗車なのか、それによる荷重計算を行う必要がある。
 また、応荷重装置は荷重によってモーターに流す電流量を増減させる機能だが、モーターの熱容量(電流をどの程度の大きさまでどの程度の時間流せるか)が小さいモーターだと応荷重装置を用いれないものもあった。

限流値の設定は?

 上の応荷重装置や下のインフラなどにも関わるのだが、モーターに流す電流量を調整する役割のある限流値を大きく取ればそれだけモーターに電流が多く流れ、直流直巻電動機はトルクは電流に比例するから、限流値を高めたら加速度は上がることになる。
 しかし1960年代の国鉄のように、インフラが整備されていなかったことから、限流値を抑えて運転しなければならない状況も発生していた。MT比1:1とした形式として国鉄では103系が、民鉄では小田急のHE車が引き合いに出されることが多いが、103系は110kWモーターで定格電流が330Aに対して空車280Aと、定格電流以下の限流値セットとなっていた。だから起動加速度は2.0km/h/s程度にしかならなかった。
 それに対してHE車は120kWモーターで定格電流が360Aに対して、500A以上の限流値セットとなっていた。当然加速度は大きくなり3.0km/h/sと出来たのだ。
 しかし、インフラを考えた場合に、この大電流を流すHE車のセッティングで国鉄線路上を走れるかと言えば走らせる事ができない。こういう面も比較する際には気をつけなければならない。
 103系は2.0km/h/sでHE車は3.0km/h/sと同じMT比1:1にしたのに性能が違う、103系はなんて低性能な車両として設計されたのだろうと思ってはいけない。そこにはきちんと意味があることを、限流値設定という部分から知ってもらいたい。

いろんな要素で加速度は変わる

 加速度を高めるには、モーターに大きな電流を流せば良いが、それが出来る変電所や電車線などのインフラが整備されてるかどうかも問題になってくる。
 それらは、順に話をしていこうと思う。

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