103系のための運転理論

高速時の加速余力

ホーム 103系の為の運転理論 鉄道ピクトリアル2010年6月号運転理論に異議あり 
加速度は限流値で変わる
高速時の加速余力

高速での運転性能って結局その速度での加速余力だよね

 「時速120kmでも尚ぐいぐいと引っ張られて加速していく」という表現を聞いたらどうイメージしますか?高速域でもまだまだ勢いよく走れる車両というイメージがするでしょう?高速域に限らず、車両の性能を示す一つの指針として、その速度での加速余力があげられる。
 厳密に言うと、定点の速度における加速余力だけを比較しても正確な特性は出ないのだが、ここではまず基本になる比較方法を知ってもらう為に、速度毎の加速余力(加速度)を計算により求めてみよう。

走行抵抗や勾配抵抗によって加速度が増減する

 加速度と加速力はほぼ同じ意味で使えるのだが、ちょっと単位が違う。加速力はkg/t※1という単位を使い、加速度はkm/h/sという単位を使う。
 kg/tをkm/h/sに変換するには30.9で割れば良いので、加速力と加速度は単純に比例して増減する。
 で、これまでは割愛してきたが、列車が走るには「走行抵抗」とか「勾配抵抗」と言う負の力がかかってきて、その単位がkg/tなのよね。勾配抵抗は坂の傾き加減を示す千分率※2の数値をそのまま使う事ができ、碓氷峠の67‰の上り坂だと走行抵抗は67kg/tと言う事になり、ここを上ろうとする編成の加速力が67kg/t以下だとこの坂は登れない事になる。
 次に走行抵抗はちょっと式がややこしいんだけど、速度によって値が変わってくる。
 
 引用:交友社「電車運転理論」P.62 まぁJISハンドブックにも記載のある数式だけどね。
 ここで、Rrってのは走行抵抗で、Vは速度・Wは編成重量・nは編成両数と言う事だ。前ページに出てきた101系全電動車10両編成の100%乗車時の編成重量は451.58ttだったと思うが、その編成が時速40km走行時の走行抵抗はどの程度になるかというと、Vに40をnに10をWに451.88を当てはめて計算すれば良いだけなので計算すると2.32という数字になる。単位はkg/tなので、101系全電動車編成の定員乗車時の40km/h時の走行抵抗は2.32kg/tと言う事になる。時速100kmだと同様に計算してみると5.13kg/tの走行抵抗がかかってくる。

では90km/hや100km/h時の引張力はどうやって求めるのか?

 引張力と編成重量、それに走行抵抗などがわかれば、実際の加速度を出すことが出来るが、一番困るのが引張力をどうやって算出するかだろう。しかし、この連載中、2回目で103系の、5回目で101系の力行ノッチ曲線を参考資料としてアップしてあるので、これさえあれば簡単に算出できる。
 電車の場合、特別な操作をせずに最終ノッチを入れていれば、勝手に進段して行くので、それを想定して2回目に出した103系の力行ノッチ曲線で数値を読み取ってみよう。
 最終段は弱め界磁35%となっていて、その曲線には4ノッチと書かれているが、その線をずっと上にたどっていくと一番上の線が切れてるところが時速100kmの状態だ。
 その時の電流を見ると、205Aくらいだろうか?そこで、この205Aの時の引張力を求めるのだが、2回目と違うのは「引張力(35%界磁)」という線との交点を見る事になる。その数値を読み取ると、約1900kgになる。
 同様に90km/hの電流値は227Aくらいでしょうか?引張力は2400kgという事がわかります。

引張力が大きい=加速力が大きい

 加速力が大きいと言う事は、その速度でより力強いと言う事で、このことを比較すれば各形式の速度帯ごとの性能が客観的に出てくる。
 よく、103系より101系の方が高速性能があるとか書かれていたりするけど、その根拠なんてのは全て「乗っていてそう感じる」だけなのだ。
 不思議でしょ?それを後押しするのが「定格速度が101系の方が高い」という理由。
 でも、この上の方法と同じやりかたで101系の引張力を求めてみると、100km/h時が約1300kg・90km/h時が約1800kgと、103系よりも低い数値になっている。
 当然、同じ速度域だと103系の方が101系より、より力強い加速が出来るわけだ。プロがこのような比較が出来ないわけはなく、国鉄の方が書いた書籍には一行たりとも「103系より101系の方が高速性能が良い」なんて事は書かれていない。
 こういう事が書かれているのは、運転理論を考慮せずに、単に乗ってみた感想とか、定格速度の高低で高速性能が測れると思い込んでる方とかじゃないかと思う。そもそも出力が103系の方が大きいのだから高速性能も当然103系の方が上になるのは誰が考えてもわかる話なんだが・・・
 つまり、こういう基礎的な事ですら、今の鉄道ファンは、知らされていないわけで、その結果、車両に対して誤った評価をしてしまうケースが多いと、まぁそういう事になるんじゃないかと思う。

 ここでは、そういう車両単体の性能比較などもそうだが、経済運転を考えた場合の消費電力量や、どのような編成が通勤輸送に適しているかなど、いろんな観点から103系の運転方法のメリットやデメリットを見ていければと思っている。

せっかくだから、101系6M4Tと103系6M4Tの時速90km〜100kmを比較してみる

 中央線や京浜東北線で実際にあった編成だけど、この両者を比べて見ると、下記のような差がある。どちらも100%乗車時の6M4T編成になっている。
 80km/h--101系-15.8kg/t==103系-17.8kg/t
 90km/h--101系- 8.1kg/t==103系-12.1kg/t
 100km/h--101系-3.9kg/t==103系-8.6kg/t
 単位は加速力だが、これを加速度に直すには30.9で割れば良い。よって、101系の100km/h時の加速度は0.13km/h/sであり、103系は0.28km/h/sとなる。
 これは理論値であり、実際の運転時には本当にどれだけの乗客が乗っているのか、車輪が削れてどの大きさになっているのか、それらも関わってくるんだけど、理論値でもきちんと差が出てるのに、どこをどう転がしたら101系の方が103系より高速性能が上と言い始められたのか、逆にウソの出所が知りたい気持ちだ。

理論武装はこれからの鉄道ファンに必要

 実際問題として、力行ノッチ曲線などの性能図表さえあれば、多くの形式で性能比較が出来るのだが、過去にこのような比較検討を趣味者が行ったというのは少ないと思う。しかし、こういう比較をしなければ公平な比較など出来ないわけで、趣味者の側もいつでも検証できるような理論武装を行う事で、逆に執筆者側にプレッシャーを与えて、実際には未検証なのに「ただ、なんとなくそう感じた」というようなレベルでの車両比較をさせない事も大事になってくるのでは無かろうか?

恐れていたトンデモ理論がピクトリアルから発信

 

 115系が201系や103系よりも加速が良いと言うようなトンデモ理論を唱える運転士の記事が鉄道ピクトリアル2010年6月号にて掲載された。「国鉄通勤近郊型電車の性能曲線を読む」と称したその記事は、JR東日本の現職の運転士が書いた記事だ。
 せっかく性能図を元にした記事を書いてくれたのに、記事の中身が間違っていたら話にならない。特に理論は計算によって答えを求めるものだから、その計算結果が間違ってしまうと、やっぱり理論はアテにならないと回りが思ってしまう可能性だってある。
 詳細は上のメニューに専門のコーナーを設けたのでそちらで確認して欲しい。運転士の免許を取るのに運転理論の問題は解かねばならないが、実際の運転をシミュレートする運転理論と、動力車試験程度で出る運転理論では全く内容が異なる。中卒や高卒でもクリアできるように、非常に簡単で公式さえ一夜漬けで覚えれば暗算でもできるような問題が出るのだ。
 これは、理論なんて実際の運転時に役に立つかと言えば、そう役に立たないけど、一応知っておいてねと言うレベルで扱われてると言う事だと思ってる。だって、運転士の使命としてはきちんと安全に運転することが第一なんだから、運転理論なんて頭でっかちのことを深く覚えるより、例えば故障時の対応について一生懸命覚える方が実務的に有益なわけだ。
 んなことで、とっても簡単な問題になってるわけ。で、その問題が解けたからといって、実際の運転時をシミュレートできるかどうかってのは別問題。こういう一夜漬けの試験勉強しかしてない場合、試験に出る運転曲線が「等加速度運動」を列車がしてるケースが多いので、実際の電車も等加速度運動をしてると思い込んでる運転士も多いと聞く。
 この運転士もピクトリアルの記事に、時速は時間と距離だと書いてるが、それは瞬間的な時速を具体的に示したものであって、その速度に達するのには途中、どんな加速をしてきたかで時間も距離も変わる点を理解出来ていない。
 等加速度運動だと時速に対して時間又は距離がわかれば、その相方も導き出せる。しかし、実際の電車の運転はそうはいかないのだ。この運転士は少なくとも、電車の運転は等加速度運動だと思っていたから、こういうトンデモ理論を記事にしてしまったようで、それは突き詰めると動力車試験程度の運転理論しか勉強していなかったと言う事なのだ。
 それじゃぁ、運転理論を語るには力不足では無いかと思う。( 2010.5.31追記)

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