103系のための運転理論

加速度計算なんて無茶簡単

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加速度計算なんて無茶簡単

電車の起動加速度は引張力と重量さえわかれば簡単に出る

 良く趣味誌などでもメカニズム的な話は良く出るのだが、実際にどうすれば性能を数値化できるのかという点までは突っ込んで書かれていない。しかし、ここで示すような事さえすれば、誰にだって客観的な性能を出す事ができる。
 簡単に説明すると、加速度は下記の式で算出できる。

  加速度(km/h/s)=電動車の引張力×電動車数÷車体総重量÷30.9 ※1

 たった、これだけですよ。これだけわかれば車両の性能を客観的に数値化出来るわけです。こんなに簡単なのに誰もこういう指針を使おうとしないのが不思議でならない。
 ただ、車体重量なども含めて、あまりメジャーじゃなく、例えば103系のモハ103冷房車の自重は何トンと言っても???と思われる方も多い。また、定員の時の乗客の重量は?と聞いても答えれる人は少ないと思われるが、これらにはちゃんと計算式があるのだ。
 結局、引張力ってのがモーターが車体を引っ張るための力であり、この数値が大きければ大きいほど加速度は大きくなる。そんなことで、加速度を高めるには「電動車の引張力を高める」「電動車の数を増やす」「車体総重量を減らす」などの要素が関係してくる。各要素については順次説明していく。

単に加速度しか書かれていない情報は注意が必要!

 良く語られる「103系の加速度は2.0km/h/sで)である」や「ジェットカーの加速度は4.5km/h/sである」という言葉だけでは、その形式のどういう状態での性能かが全くわからない点は、上の式を当てはめてもらえばわまると思う。計算式はモーターの力のかけ算(電動車の引張力×電動車数)を引っ張る重さ(編成重量×30.9)で割っている。30.9は定数なんだけど、要は同じ重さの編成なら、電動車の数が増えれば加速度は上がるし、同じ引張力と電動車数なら編成の重量が軽くなれば加速度は上がる。また、細かい話だが、モーターの引張力というのは、モーターに流す電流を増やせば大きくなる。
 つまり、このように、モーターに流す電流・電動車の数・乗客の数による編成の重量の違いなどが加速度計算には非常に大事なわけだが、単に加速度しか書かれていないと、どの状態なのかがわからず、公平な比較が出来ない事になる。
 よって、正確に表現するには「103系4M4Tの応荷重装置を用いた定員時の起動加速度は2.0km/h/sである」という表現をしなければならないわけで、公平に比較するには、こういう部分にも気を配る必要があるのだ。
ちなみに、将来話すと思うけど、ジェットカー※2の応荷重装置は定員乗車までしか考慮していないので、定員の2倍、つまり200%乗車時ではスペック通りの加速度4.5km/h/sは出ないのだ。定員の3倍、つまり300%乗車では起動加速度は3.5km/h/sまで落ちる。。。。オール電動車編成でこの程度しか出ないのだ。
 103系が8M2Tで応荷重装置を用いて300%乗車まで3.3km/h/sという起動加速度が出せる事を考えると300%という乗車率での話だとジェットカーよりも103系の方がハイスペックな車とも言えるかも知れない。また、当時の関西・首都圏では300%乗車などザラにあったわけだから、国鉄の通勤路線で103系とジェットカーを用いた場合、ちまたで言われる加速度の2.0と4.5km/h/sという部分だけでははかれないものがある事がわかっていただけるだろうか?

引張力は力行ノッチ曲線を見ればわかる

 力行ノッチ曲線とは、簡単に言うとモーターの特性を示した曲線で、時速○キロ相当時にどのくらいの電流が流れていて、どのくらいの引張力が得られるかを示したグラフである。運転理論の基本になる部分なので力行ノッチ曲線の読み方は必ず覚えて欲しい。また、ここでは103系などの国鉄電車の話が中心になることから「直流直巻電動機」を基本に話を進めていく。複巻などのモーターは国鉄では保守の面で採用を見送っていた事から取り上げない。複巻には複巻の有利な点があるが、現場が使わないと言ってるものを出してきてメリットを主張したところで絵に描いた餅にしかならないからだ。

 これは103系の力行ノッチ曲線で、厳密に言えばMT55を910mm直径の車輪で歯車比を1:6.07とした車種のノッチ曲線で、基本的には301系も105系も似たような線だ。制御器の段数や直列・並列などの組み合わせの関係で「速度曲線」の数や下の電流の値が少し変わったりするだけで本質は変わらない。
 引張力はグラフの左側に0から20000までの値が振ってあり、単位は(kg)である事がわかる。で、どの線を見れば良いかだが、まず「引張力(100%界磁)」という文字のある線を探して欲しい。左下から右上に伸びる6本ほどの線の一番上の線にそう書かれていると思う。
 これが全界磁※3の引張力曲線で、この値を読み取る事で時速何キロの時点でどの程度モーターに加速余力があるかを計算する事ができる。ただ、注意しなければならないのはy軸は引張力だがx軸は電流となってる点で、モーターの電流が大ききければ大きいほど引張力は大きくなり、逆に電流が小さくなると引張力も小さくなる事を意味している。
 では、全界磁の状態で300Aの電流が流れた場合の引張力は何kgであろうか?図をよく見てもらい下に300と書いてある所の縦線を上に伝っていき、先の引張力(100%界磁)と書かれた線との交差部分の数値を見れば良い。
 だいたい、左に書かれた速度で言うと41.5km/hくらいで交わっているはずだ。で、速度の数値と引張力の数字は200倍で書かれている(50km/hの所の引張力が10000kgなので)ので、この位置の引張力は41.5×200で8300kgと言う事がわかる。

速度との対比

 300Aの電流が流れた時の引張力はグラフから8300kgと計算ができたが、では、この300Aと言う電流が流れているのは時速何キロで走行中なのであろうか?今度は左上から右下に伸びる複数の曲線を見ていただきたい。一番上には「速度(35%界磁)」と書かれているが、その中程に「速度(100%界磁)」と書かれた曲線があると思う。この曲線と300Aの交点が、その時の速度になる。
 図で確認すると、35km/hの場所で交わってるのがわかると思う。このことから「103系のモーター車1ユニットが全界磁で運転中に時速35km時の引張力は8300kgである」と言う事がわかるのだ。
 じゃぁ時速40km時の引張力は何kgであろうか?先の「速度(100%界磁)」曲線を左上にたどっていくと40km/hの交点は約220Aだとわかる。220Aでの「引張力(100%界磁)」との交点は26.5km/hのあたりだろうか?200倍すれば引張力が出るので、5300kgと言う事が言える。このように、同じ速度曲線上であれば、速度が上がれば引張力が減っていく事になる。

例題を解いてみよう

 では上記の例から実際の車両にあてはめて計算をしてみよう。登場してもらうのは103系非冷房車の4両編成にしましょう。TcMM'Tcという編成で、Tc車(クハ103)の自重は27.4t・MM'(モハ103+モハ102)の自重は72.5tなので、4両編成で127.3tとなります。これに乗客が100%乗車していたと考えましょう。この4両編成の定員は560人で、一人あたり60kgを加算するので、乗客の重量は560×0.06t=33.6tとなり、合計した編成重量は車両が127.3tで乗客が33.6tの合計160.9tとなります。

 では、先の全界磁で時速35kmで走行中のこの編成の加速度はいくらになるかと言うと、一番上の式に当てはめて8300(引張力)×1(電動車の数)÷160.9(編成の重量)÷30.9=1.7km/h/sとなるわけです。

 あれ?103系って加速度は2.0km/h/sなのでは?それより低くなってるじゃん!!!と思われた方も多いと思いますが、103系には応荷重装置というのが付いています。これは、乗客の数に応じてモーターに流れる電流を多くする装置です。ですので、実際の103系は定員乗車時には330A程度の電流が流れていて、それに伴って引張力も大きくなっているのです。で、実際に平均300Aの電流がモーターに流れるのは、ほぼ空車時です。そこで、上の式の編成の重量を車両の重量127.3tのみで計算してみましょう。2.11km/h/sという数字になったはずです。実際には走行抵抗などを加味しなければならないので、加速度は2.05km/h/s程度になると言うわけです。

 ここで注意してもらいたいのは、同じ編成でも乗客の数によって加速度が変わる点、モーターに流す電流によっても加速度が変わる点です。この両者ともに性能を客観的に比較する上では非常に大事な部分ですので、良く覚えておいてもらえればと思います。

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