103系のための運転理論

性能って何だろう?

ホーム 103系の為の運転理論 鉄道ピクトリアル2010年6月号運転理論に異議あり 
性能って何だろう?

性能とは何か

 性能を単なるスペックの優劣で見るのであれば、当然そこに示す数値が高い方が良いことになるが、実際にはそんな単純な数字の比較で語られるものではないはずだ。
 しかし、鉄道趣味界では加速度が3.5km/h/sだから加速が良いとか、定格速度が55km/hだから高速性能があるとか、実務上性能を語る上では要素の1つに過ぎないデータだけで全体の性能を決めてしまうあやまちを犯している。
 例えば、社会人でも「仕事が出来る」とは、別にある特定の事に長けている状態を言うものではなく、総合的にみた成果をして表す。鉄道車両も、例えばある区間を運転した場合に必要な運転時間や、消費電力量などを実際の路線の実情やその企業の設備投資余力など、いろんな項目を検討する必要があり、101系のように高性能な車両を作ったけど走らせる事ができなかったなんてのは、1500mしか滑走路が無い空港しか持たない航空会社が、ジャンボジェット機を買うようなもんで、その航空会社にとっては、ジャンボジェットよりもYS-11の方がよっぽど性能が高いと言えるのだ。
 つまり、スペックが高くても実際に使えないものなど評価のテーブルにもつけない事を意味するのだが、鉄道趣味界では、単にスペックだけに目をやってしまい、公平な比較が出来ていない部分が大きく、そのために非難の対象になっているのが、この103系なのである。

運転理論や経済運転の記事が趣味誌に載らないのが原因の一つ

 経済運転とは、蒸気機関車運転の頃から行われてる省エネ運転の事で、当時は石炭の減り具合を目視することでその効果を確かめることができたが、電車運転になり積算電力計がついていない形式の場合、運転士はその成果を確かめることが出来なかった関係で、蒸気機関車の頃よりも各自研究と言う部分ではやりにくくなったものの、企業として動力費削減というのは利益を確保する手段でもあり、その事で無駄な変電設備などの設備投資も抑制できるわけだから、そのようなワーキンググループは活発に活動していたようである。
 しかし、そういう経済運転という言葉自体も趣味誌にはあまり載らないばかりか、例えば阪神のジェットカーに代表されるような力行から惰行に移らず即ブレーキを掛けて駅間の運転時間を短縮する「オフブレーキ運転」などをすれば良いなどという安易な意見まで出る始末で、そのことによるデメリットが語られていないのがこの趣味界の盲目的な部分ではないかと思う。
 基本的に経済運転の基本は、比較的高い加速度で一定の速度まで上げて、その後一定の速度で巡行し、惰行に移った後、最終的には最大減速力で停止するというのが理論上一番効率が良い運転方法だと言われている。
 ここで、惰行に移るまでのモーターに電流を流している間を力行と言うが、この力行の時間が停止するまでの時間に対してどの程度使っているかを示す指針として力行率というのがある。
 実際にノッチ曲線から103系の消費電力量を計算した場合に、京浜東北線の場合では力行率35%くらいが効率が良いというシミュレーションがあり、力行率をいたずらに上げても、電気代だけかかって、実際には10秒短縮できるかどうか程度の効果しかなかったりする。
 その10秒が大事な時ももちろんあるが、そのために大容量の変電設備や架線設備、場合によっては列車の電動車数を増やしたりする事も行わなければならないわけで、先に「設備投資余力」と書いたように、金が腐るほどあれば何でもできるが、限られた予算内で比較的高い効果を上げる(VE効果)ためには運転理論を元にした経済運転のシミュレーションが必ず必要になるのである。
  鉄道趣味界として、これらの説明がなされてこなかった事がスペックだけで優劣を判断しようとするようになった元凶でもあろうかと思っている。 

Copyright(C) Nobuyuki Nagao,All Rights Reserved.