103系のための運転理論

加速度は限流値で変わる

ホーム 103系の為の運転理論 鉄道ピクトリアル2010年6月号運転理論に異議あり 
加速度は限流値で変わる

加速度の値って限流値の設定だけで変わるって知ってた?

 普段、趣味誌等で言う「加速度」というのは、起動加速度・直線加速度等と言う呼ばれ方をする場合もあるが、定加速制御とか電圧制御と呼ばれる部分で、基本的には架線電圧を一気にモーターに掛けることができないために、徐々に電圧を上げていく段階の事を指す。
 よって、抵抗制御車の場合は、抵抗を全て抜いた状態※1までの加速度を指すのだが、この抵抗制御において抵抗を徐々に抜くタイミングを決めるのが限流値の役目だ。
 モーターが速度をあげて回転し始めると、逆起電力の影響を受けて電流が落ちてくるので、更に加速をするために抵抗を抜いて電圧を上げて電流量を増やして回転力を増すという動作を繰り返すのだが、その抵抗を抜くタイミングが限流値で、限流値はモーターに流れる電流がこの数値まで落ちたら抵抗を抜こうと言う指示を与える。だから、限流値の設定によって、起動時にモーターに流れる平均電流が変化する。
 加速度はモーターの回転力に比例して大きくなるが、モーターの回転力は電流が多いと大きくなる。つまり、モーターに多く電流が流れていると加速度が大きくなるわけだ。
 で、限流値を上げると、あまり電流が落ちていないのに次の抵抗を抜くために、平均電流が大きくなり、それに伴って加速度も上がるのだ。
 だから、雑誌などに掲載されてる「加速度」と書かれてる数値は絶対的な数値ではなく、限流値を変えればいとも簡単に変化するものなのだ。

101系で検証してみる

 別に検証するのは何系でも良いんだけど、営業運転で応荷重装置を使ってない珍しい形式なので、変化がより分かりやすいので選択してみた。

ノッチ曲線にあれこれ注釈を書き込んであるのでそれらを確認しつつ読んで頂きたいのだが、まず限流値を280Aにすると言う事で、分かり易くするために図の280Aに相当する所に縦線を引く。赤い直線が上から下まで一本通ってるのが280Aの場所だ。
 次に、実際にモーターに流れる電流を見ていくが、先に説明したように速度が上がると電流が落ちていき、限流値まで下がったら抵抗を抜いて次のノッチ(段)に進めて再び電流を多く流すという動作は、図中ののこぎり形に書かれた赤線で確認できよう。左端に速度が書かれているので、一つ例を挙げると、スタート直後はノッチが進段していき、直列1段目は限流値以下なので飛ばしてS2段からスタートする。約310Aから速度が上がるにつれて電流が減っていき、時速2kmで限流値と同じ280Aとなる。ここで制御器が抵抗を一つ抜いてS3段に移行し、その時に380A付近まで電流が増える。そしてまた速度の上昇と共に電流が減っていき、時速8kmくらいで280Aになるので、S4段に移動し電流がまた少し増える・・・この繰り返しで全ての抵抗が抜けるのが時速22kmくらいだが、ここで今までとは違った動きをする。今までは電動車2両分の8個のモーターを直列でつないだ端子電圧187.5Vだったのだが、回路を切り替えて4個のモーターを並列につなぐ形にする。
 これにより、端子電圧は375Vとなり1つのモーターにはより多くの電流を流す事ができるようになる。そこで、先ほどの抵抗をまた全て挿入した段階からスタートして、速度が上がるにつれて、少しずつ抵抗を抜いていく処理を行う。
 ただ、直列と並列のつなぎ替え時には、急激に電流が流れるケースがある。特に101系の場合はモーターの設計を途中で一度変更した関係で、この限流値で使った場合、時速22kmでの直列から並列への切り替え時に急激に大電流が流れる。図で見ても400Aと450Aあたりまで赤線が伸びてるのがわかると思う。
 並列になると、限流値を境にして4個のモーターの進段タイミングが少しずつずれるのだが、その関係で並列になった時はより大きな電流が流れてしまうのだ。
 このように、本来ののこぎりの歯の部分から大きく飛び出るのを「尖頭電流(せんとうでんりゅう)」と呼び、101系の全電動車の場合、限流値を280Aに落として運転したとしても、直・並つなぎ替え時に420A以上の電流が流れ、平均425A×5ユニット×並列なので2倍=4250Aという電流が流れてしまい、変電所に事故電流として処理されてしまうケースが多かったのである。
 で、肝心の加速度計算に必要な引張力だが、実際にモーターに流れる平均電流は限流値よりも少し多くなるのは限流値より右側にのこぎりの歯のようになってる点からも明白である。で、こののこぎり部分の面積を計算して平均すれば厳密な値が出るのだが、平均起動電流を簡略的に求める方法としては、限流値に10Aから20Aを単純に足す方法がある。
 ここでは、図の赤線の具合も勘案して、限流値に10Aを足した290Aを平均起動電流としてみた。で、引張力は290Aの縦線と「引張力(100%界磁)」と書かれた交点を見れば良く、図から6000kgというのがわかる。
 つまり、101系が限流値280Aで運転する場合の引張力は1ユニットあたり6000kgという事なのだ。

では加速度を求めてみよう

 ユニットごとの引張力がわかれば、あとは車両の重量と、電動車が何ユニットあるかさえわかれば加速度は出せる。実際、国鉄運転局の「速度定数便覧」に書かれてる性能図も「ユニットごとの引張力」が基本になっていて、これがわかれば全てがわかると言っても過言ではない。
 さて、101系全電動車編成はMcM'c+McM'MM'MM'MM'cという編成で、クモハ101(Mc車)とクモハ100(M'c車)が2両ずつ、モハ101(M車)とモハ100(M'車)が3両ずつという構成になっている。自重はMc車が38.3t・M'c車が36.2t・M車が37.4t・M'車が35.3tとなりますので、全電動車10両編成の編成重量は367.1tという事になります。で、全電動車と言う事は5ユニットある訳ですから、1ユニットあたり6000kgの引張力は編成では6000×5で30000kgとなります。
 加速度計算なんて簡単でも書きましたが、編成の引張力÷編成の重量÷30.9で加速度が出ますので計算してみますと30000÷367.1÷30.9=2.64km/h/sと言う数字が出ます。これが、101系全電動車編成の限流値280Aで運転していた時の空車の時の加速度です。
 では、定員時の加速度を出してみましょう。101系は先頭車136名・中間車144名ですので、編成での定員は1408名となり、乗客一人あたりの計算重量は60kgですから、全体で1408×60÷1000=84.48tです。
 先の車両の重量367.1tと乗客の重量84.48tを足して451.58tを元に先ほどの加速度計算を行うと2.15km/h/sという数値になります。つまり、101系全電動車編成はデビュー当時定員では2.15km/h/sの加速度しか無かったことになります。同様に200%乗車時だと1.81km/h/sまで落ちてしまい、300%乗車時に至っては1.56km/h/sになってしまうのです。

では限流値を変えてみると加速度はどう変化する?

 先の101系ノッチ曲線をもう一度見てもらおう。加速度計算に必要な引張力の曲線は、左下から右上に伸びていて、電流が大きくなれば引張力も大きくなるのがわかると思う。
 先ほどは6000kgしか引張力が無かったが、8000kgの引張力を得ようとすると、平均起動電流がだいたい360Aほどあれば良い事が図中から抜き出せるだろうか?
 これがわかれば、限流値は平均起動電流の10A〜20A減だから、限流値を350A程度にすればユニットあたりの引張力が8000kgにアップするのも容易に理解出来よう。
 で、加速度を計算すると、空車で40000÷367.1÷30.9=3.53km/h/sとなり、100%時2.87km/h/s・200%時2.41km/h/s・300%時2.09km/h/sとなるわけです。
 だから、加速度というのは、限流値の設定でこのように変化していくのです。
 よって、電車の加速度というのは、単に形式だけで示しても全く意味をなさず、その形式の限流値や乗客の数などの注釈が無いと正確に表現してるとは言い難いのです。
 ただし、多くの形式は乗客の数が増えると限流値を増やして加速度を一定にする応荷重装置というのを積んでいるので、限流値や乗客の数を気にしなくても良い場合もありますが、モーター車の数と編成の両数を示す(MT両数)は必ず明記する必要があります。
 ある本に、103系の加速度は2.0km/h/sだから・・・などと書かれていたのを見たのですが、これって何両編成の話なのかわからないですよね。両数やモーター車の数によって性能が変わる事を著者は知らなかったのでしょうが、この加速度は103系2M2Tや4M4Tで応荷重装置を使った場合の値です。
 性能と言うのは、こうやって細かく条件を示さないと、公平に語る事ができないのです。

Copyright(C) Nobuyuki Nagao,All Rights Reserved.