異議あり!

鉄道ピクトリアル2010年6月号の運転理論

03
運転士は正しいのか?

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運転士だから何でも知ってる訳では無い

 実は、この著者は1年ほど前のイカロス出版から出ている「Jとれいん」と言う趣味誌の33号に「運転士から見た201系」という記事を書いていて、その中で「時速100kmに到達する距離が201系より115系の方が短いから115系の方が201系より加速が良い」と書いてしまったのですね。
 この著者とはとある掲示板で名前を見たことがあったので、その理論が間違ってる事を伝えたのですが、即答がないばかりかウヤムヤにされてしまいました。私はこのやりとりの時に「この運転士は理論をあまりわかってないな」と直感的に感じました。
 この考え方は列車が等加速度運動を行っている場合だと距離が短いイコール時間も短いわけですから正しいのですが、列車は等加速度運動などを行っておらず、起動時は加速度一定ですが、ほぼ定格速度から上の速度では加速度は刻々と変化していますので。
 私自身、鉄道事業者に勤めるわけでもなく、全くの第三者的な素人のファンですが、過去3年にわたって運転理論関係の本や記事を読みあさった関係で、ずいぶんとその当たりの話には首を突っ込めるようになりました。
 が、その私の意見などに全く手も足も出せない状態であった事もあり、このまま運転士という肩書きで誤った記事を乱発されたら困るなぁと思ってたわけですが、今回、その懸念が事実になりそうでとても残念に思っています。

見なければならないのは何秒後に何メートル進んだかだ!

 図1

 図1は記事に記載のあった115系の表2と103系の表5から起こした速度・時間−距離グラフです。ただ、この記事の表にあるt行は等加速度運動時の時間計算式(t=7.2S/V)を元に計算されており、例えば表2の95km/hから100km/hまでの走行距離220.8mに対してこの計算式だと走行時間が12.7秒(100km/h時の76.1秒と95km/h時の63.4秒の差)となっており、時速95kmの電車は秒速26mほどですから、その速度で12.7秒走ると335mになり一致しません。
 ですから、この表のt欄は計算式を間違っていて、正確には「t=(V2-V1)/α」で計算しなければなりません。αはこの区間の平均加速度になります。平均加速度はG欄の平均加速力から求まります。G欄を30.9で割れば良いのです。
 表2のこの区間のG欄は18.91kg/tとありますので30.9で割ると0.61km/h/sとなります。つまり1秒間に0.61km/hずつ速度が上がっていくと言うわけで、あとは95km/hと100km/hの間の5km/hを0.61km/h/sで何秒かかるか計算すれば正確な解が求まるわけで、計算すると8.17秒となります。
 つまり、この記事にある秒の要素は実際の運転理論上の計算よりも少し数値が大きくなっていたわけで、上の図はそれを是正して作ってあります。
 図1は、115系が空車状態で加速していますので、出だしから103系を引き離す形になります。100km/hに到達するのは記事にもありますように115系が1056m地点、103系は1658m地点です。
 また、図1は時間と距離に対応した点線も記されていますから、115系が100km/hに到達した1056m地点で103系がどの当たりを走ってるか図から見てみると、約930m程度でしょうか?実際には100km/hに到達する距離は600m以上の差がありますが、115系と103系が実際に走っているその差はわずかに100m程度の違いしか無いと言う事です。

図2

 図2は同じ比較で乗客を定員の1.5倍、つまり乗車効率150%あると考えて計算した式です。115系は乗客が増えても加速力の元になる引張力に変化が無いので起動加速度は荷重に応じて落ちてしまいますが、103系や201系は応荷重装置があるため、乗客が増えたら増えた分だけモーターの引張力を増やして加速度を一定に保とうとします。
 その結果、乗車効率0%、つまり空車状態では出だしから引き離される一方だった図1に比べて低速域で103系の方が加速度が高くなっている事がわかるかと思います。
 ここで注意してもらいたいのは点線の時間−距離曲線で、出だしは103系が短い時間で長い距離を走ってるのがわかるかと思います。それは加速度が103系の方が良かったのだから当然の話なのですが、では時速80kmに到達した距離と各列車の位置関係を見てみましょう。115系が80km/hに到達するのは550m付近ですが45秒ほど経過している事がわかります。で、103系が80km/hに到達するのは800m付近でしょうか?時間も55秒ほどかかっていますね。これはJとれいんの理論からいくと103系より115系の方が80km/hに達した距離が短いので115系の方が加速が良いと言うことになりますよね。
 では、115系が時速80kmに到達した45秒時点で、115系と103系、どちらが距離を走っているでしょうか?点線の45秒の欄を見ると115系の深緑線が540mほどでしょうか?103系の黄緑線はそれより先580mあたりになってるのを確認してみて下さい。
 この図からも明らかなように「特定の速度まで到達した距離が短いからと言って加速が良い※1とは限らない」と言う事が言えるわけで、これは運転理論を学んでいれば容易にわかる話です。
  図2でも実線部分だけ見れば115系は103系を大きく引き離しているイメージがありますが、距離と時間という観点で図2を見ると1000mを超えたあたりで115系が103系を追い抜きますが、相対速度はわずか10km/h以下なので、そうそう引き離すことが出来ず、115系が100km/hに到達した時に103系はそのわずか30mくらい後ろを走ってる程度の差しか無いのです。秒数にすれば2秒あるか無いかでしょうか?


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