異議あり!

鉄道ピクトリアル2010年6月号の運転理論

05
空車で語る不自然さ

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なぜ空車で比較しているのか?

 国鉄運転局の資料として「速度定数便覧」と言うものがあるのだが、昭和47年のその資料の中に「速度定数査定基準規程」と言うものが書かれている。
その第39条にはこのような記述がある。

第39条 列車重量の算出は、次の各号に定めるところにより行うものとする
(2)電車列車または気動車列車の重量は、運転整備重量と荷重の和とする。
(3)前号の荷重は、乗客1人当たりの重量(60kg)に定員数を乗じた値とする。ただし、総局長などが必要と認めたときは、実情に応じた乗車効率を用いることができる。


 この条文の説明として、(2)及び(3)号では電車列車または気動車列車は全て乗車効率100%を基準とすることとした。従来、比較的乗車効率のよかった急行及び普通列車は150%で査定していたが、最近の乗車効率を調査してみると特殊な列車または区間を覗きほとんど100%以下である事が明らかになったので、これらの列車も乗車効率100%とすることになった。ただし、特に乗車効率の高い急行列車・通勤列車等はその実情に応じて乗車効率を決めてよいことにしている。

 この規程から、最低でも運転性能曲線図を作成する上では、定員以上の乗車率で計算しなければならない事がわかるし、特に首都圏の通勤路線を走るような形式であれば、比較的高めの乗車効率を考慮して計算せねばならない事くらいは運転理論をかじっていたら誰だって思い付きそうなものだ。
 それなのになぜ空車で計算しているかと言う点については、本人でないと理由はわからないのだが、荷重計算を著者がわかっていなかったのでは無かろうか?
 実は、著者が教本として記事の中で示した「電車運転理論」という本の中には、乗客一人あたりの荷重について特別な節を設けて説明していない。ただ、書いて無い訳では無くて、電車総重量の求め方と言うような中に、実際の計算式に当てはめた状態で「60」という数字が出てるだけで、きちんと本を熟読していない限り、この60ってのが乗客一人あたりのkgであるという風には気づきにくい。
 運転理論を学んだ者が、まず作りたいと思うのは運転曲線であり、その場合に絶対に気になるのは乗客の重量なわけで、例えば積車と言う表現でも国鉄では20t荷重とか400人乗車時と称していた。これから行くと一人50kgになるわけだが、実際にはどの程度の重さで計算すれば良いのかなど、目を皿のようにして「電車運転理論」や「電車運転工学」・「電車運転曲線と操縦理論」などの専門書、電気車の科学や電車誌に掲載された運転理論関係の記事を読みあさって実際には一人何キロで計算すれば良いのか等を調べたものだ。
 だから、運転理論を真剣に取り組んでいれば、必ずこれらは疑問に感じる部分だし、空車よりも実際の荷重で計算したいと思うのは誰でも考える事ではないだろうか?
 そういう心理を考えた時に、著者が空車で比較してると言うのがとても不自然でならないわけで、前章の本の丸写しの表なども含めて考えると、やはり付け焼き刃的な感じはぬぐえない。

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