異議あり!

鉄道ピクトリアル2010年6月号の運転理論

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乗客が乗るとどうなる?

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問題と考える記述

2010年5月電気車研究会発行 「鉄道ピクトリアル」2010年6月号 P.97-P.101
「国鉄通勤近郊型電車の性能曲線を読む」

P.101に記載した「201系が103系よりも加速が良いことは、最初に述べたとおり、異論はないだろう。その201系よりも115系の方が加速が良い、となれば当然、103系よりも115系の方がはるかにポテンシャルが高い事になる」

問題と思えた部分

 第2章「比較方法が不公平じゃ?」でも書いた通り、応荷重装置を用いた103系や201系を応荷重装置を用いない115系で空車で比較したらそうなるのはあたり前。そんな部分だけ抜き出して115系は103系や201系より加速が良いぞと言うのは、情報操作以外の何ものでもない。
 特に、性能曲線を読むというタイトルの中で、このように不公平な比較をしているのであれば、松本氏は運転理論をわかっていないか、性能曲線を読めないか、またはその両者かのいずれかではないかと思われるほど、この比較は情けないものだ。

それがなぜ問題なのか

 加速力の単位はkg/tで、文字の如く1t当たりの引張力の大きさで表される。だから、引張力に対して編成の重さや乗客の数が少なければ、当然加速力は大きくなる。
 応荷重装置は、加速・減速時に乗客の増減に関わらず、加減速度を一定に保ち、運転操作などをしやすくするための機能であるから、空車状態でも積車状態でも同じ加速度にセットされる。それに対して、応荷重装置を用いない形式は、積車の状態で性能が出せるようなセッティングとなっているので空車だと性能をもてあます事になる。つまり、応荷重装置を用いない形式の空車状態というのは、比較するのには非常に不公平な条件設定なのだ。それに、空車って・・・回送電車じゃあるまいし。せめて定員で比較しろよ!と普通なら思うはずだが。
 下に私なりに試算したものだが、この表を見て115系が201系より加速が良いとか、103系より遥かにポテンシャルが高いだとか言えるだろうか?もちろん、起動加速度のみの比較なので、実際の走行条件と照らし合わせてどういう条件で比較するのか等を見る必要もあるのだが、これを見る限り115系の方が加速が良いなどと、どの口が言ってるのか!と言いたくもなる。
  ついでに、疑問07の101系との比較も載せてみよう。記事では101系・103系ともに非冷房車だが、101系は非冷房(800番台込みのMcM'Tc×2)のまま103系は冷房で比較してみた。103系にとっては荷重面で不利だが結果は?
 また、115系の車両重量は300番台McM'Tc×2の238.4t、定員は720名で定員時43.2t荷重として計算し、加速力は起動抵抗3kg/tを引いた0km/h時としている。また、101系・103系の平均起動電流は限流値プラス20Aとしている。
荷重毎の限流値と起動時の加速力比較
  空車時 定員乗車時 300%乗車時
115系4M2T 応荷重不使用 440A-77.54kg/t 440A-65.18kg/t 440A-49.17kg/t
201系4M2T 応荷重使用 500A-85.08kg/t 540A-78.42kg/t 680A-78.20kg/t
103系4M2T 応荷重使用 300A-77.72kg/t 370A-84.63kg/t 470A-84.32kg/t
101系4M2T 応荷重不使用 380A-86.06kg/t 380A-69.73kg/t 380A-48.63kg/t


 見ての通り103系が201系よりも加速力が大きくなってるのがわかるが、103系がこの加速力を維持できるのは30km/hちょっとまでなので、スタート時に103系が先行しても少ししたら201系に追い抜かれるのは途中で加速力が201系が上になるからなのだ。103系冷房車と101系非冷房車の比較でも、定員乗車ではあからさまに差が出てるのがわかるかと思う。だから、中央線などの103系は性能の劣る101系に加速度を合わせるために応荷重装置を使わず限流値290A固定で使っていたのだ。その性能を落としていた103系に101系で勝ったからと、現職の運転士からは101系の方が早いと言うような評価をされていたようだが、こうやって検証してみると単に運転士が103系が性能を落としてる点を見落としていただけだと言う事がよくわかると思う。
  なお、 応荷重装置での定員乗車時や300%乗車時の限流値のセット方法は、積車の限流値と積車の編成重量で加速力を求め、その加速力を基本として定員乗車の編成荷重だとどれだけの引張力が必要か逆算し、それによって限流値も逆算する形が教本に記載されている。
  私は、空車0%〜積車300%として、限流値の積空差をこの300で割り、1%ごとに限流値が何アンペア変化するかという簡略方法を用いている。201系の場合、空車500A〜積車680Aと180Aの差があるので、1%の乗車率の変化毎に180÷300=0.6アンペアが増減するという考え方だ。よって、100%乗車時の限流値は560Aと言う事になるが、ここでは、教本に載ってる計算方法で201系の定員時の限流値を調べてみよう。
編成重量TcMM'MM'Tcの6両編成で231.6t
定員は848名で乗客は一人60kgで計算するので100%時で50.88t
300%時の編成総重量は50.88×3+231.6=384.24t
下図の力行ノッチ曲線で積車限流値での引張力を求める。201系は電機子チョッパ制御なので限流値=平均起動電流と見ても良いので、680A時の引張力の15600kg
4M2Tなので、編成での引張力は15600×2=31200kg
300%乗車時の加速力は31200÷384.24=81.2kg/t 約2.63km/h/s

100%乗車時でも81.2kg/tを維持すれば良いので、定員時の編成重量(231.6+50.88)に、この加速力を掛ければ編成でたたき出せば良い引張力が出てくる。81.2×282.48=22937.4kgで、2ユニットあるので1ユニット当たりは半分の11468.7kgで、ノッチ曲線の11500kgあたりの電流値を見ると540Aなので、定員乗車時の限流値設定は540Aであると言う事がわかる。
MT60力行ノッチ曲線

 ついでに103系も計算してみようか。103系冷房車4M2Tは先頭車を非ATCタイプの31.6tとした場合223tとなり、乗客数は201系と同じなので定員時の加重は50.88tで、300%時の編成総重量は375.64tとなる。
 103系の場合は抵抗制御なので、限流値よりも若干高めの電流が平均起動電流として流れ、その電流値の引張力を用いるのでは?と思うのだが、教本には限流値である470Aの値を基本データにするようだ。
 図より470Aの引張力を読むと15400kgになるので201系と同様に計算していくと、2ユニット30800kgを編成重量の375.65tで割れば加速力が出てくるわけで、計算すると82kg/tとなった。201系より若干高くなるのは車体が若干103系の方が軽いので、引張力がわずかに小さい分を補ったためである。
 定員時の限流値も201系同様に求めると、273.88t×82÷2=11229.1kgでノッチ曲線から約370Aと言う事が導き出せる。

MT55力行ノッチ曲線

こう考えたのかも

 普通、こんな不公平な比較はやらないが、なぜ松本氏がこのような比較をしたのかわからない・・・・ 応荷重装置を使った場合の定員乗車の荷重や限流値の計算方法を知らなかったからでは無いかと密かに思ってるが、松本氏が教本として見たと言う「電車運転理論」の本にはきちんと書かれているんだけどなぁ。

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