異議あり!

鉄道ピクトリアル2010年6月号の運転理論

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限流値の比較は慎重に!!

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問題と考える記述

2010年5月電気車研究会発行 「鉄道ピクトリアル」2010年6月号 P.97-P.101
「国鉄通勤近郊型電車の性能曲線を読む」

P.101の「かつての101系は応荷重装置を使わず、限流値を390アンペアに固定していた。103系非冷房車の限流値が空車280アンペア、積車420アンペアだったので、超満員のラッシュ時以外は、互角かそれ以上だったことになる」

問題と思えた部分

 直近に疑問06に出した101系は限流値を390アンペアに固定しているという記述からの続きであり、101系は390アンペア、103系は空車時280アンペアで積車時420アンペアだから、積車は420>390なので103系の方が上だが、それ以外は390以下になるので101系の限流値の方が上になってるから101系の性能が良いと言う理論に見える。

それがなぜ問題なのか

 問題以前の話で、主電動機の特性と言う要素を全く加味していない。101系はMT46Aで103系はMT55という主電動機を用いている。MT46Aは100kWモーターだし、103系は110kWモーターである。MT55はMT46Aに比べて低速トルクを増し・・・何度も趣味誌にも記載された言葉だからちょっとしたファンなだら誰でも知っている。低速トルクを増すと言う事はどういうことだろう。ここからは運転理論も関連する話だが、少ない電流で大きなトルクの発生があると言う事だ。
 動輪の大きさとギア比が違うので主電動機特性曲線で比較するとわかりにくいので、101系と103系のノッチ曲線にある引張力で比較してみよう。

図1 101系ノッチ曲線
図2 103系ノッチ曲線

 101系の限流値390アンペアってのはちょっとおかしいと思うが、記事の数値のまま比較してみよう。また限流値の数値で引張力を比較するのではなく、平均起動電流(概ね限流値の15〜30アンペア増し)の引張力で比較しなければならないが、ここでは限流値の値で比較している。
 図1の101系のノッチ曲線では390アンペア時の引張力は桃線の8900kg程度になってるが、103系がどの程度の電流でこの引張力を出せるかを図2で確認すると、8900kgの横線と引張力曲線の交点を見ると約315アンペアであることがわかる。
 だから、103系は空車では280アンペアだから7400kg程度の引張力しか無くて101系の8900kgという引張力以下しか出せないが、35アンペア増えた315アンペアで101系と同等の引張力になるわけで、定員時にはたちまち103系の引張力の方が上になる。「性能曲線を読む」と題名に書いてあるのに、こういう重要な点を全く見れていないのはいったいどういうことなのだろうか?
 図1と2からわかるように、103系は同じ引張力を出すのに電流量が少なくて良い。これは101系が全電動車編成でピーク電流制限に引っかかってしまい、限流値を280アンペアに落とさなければならなかったことから低い電流量で大きな引張力を出せるようにMT55というモーターを設計したからとも言える。そのモーター特性の違いを加味せずに、限流値の数字比較だけで性能が良いとか加速が良いとか、このような比較がまかり通ってはならないと思う。

こう考えたのかも

 MT46AとMT54は100kWと120kWという差がありながら、153系と165系等の併結運転時のことを考慮して、特性はかなり似て作られている。だから同じ300A時の回転力はMT46AもMT54もほとんど変わらない。だから同じ動輪で歯車比であれば、同じ電流であればほぼ同じ引張力が出せ、加速度も同じと考えられる。
 だから、電流量を比較する事で引張力を比較し、加速度の優劣を語る事が可能ではある。しかし、今回は特性の違うMT46AとMT55との比較であるから、両者の同一電流での回転力をきちっと精査する必要があったのだが、そこまで検証できていなかったのだろう。

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