異議あり!

鉄道ピクトリアル2010年6月号の運転理論

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勾配区間での比較で良いのか

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問題と考える記述

2010年5月電気車研究会発行 「鉄道ピクトリアル」2010年6月号 P.97-P.101
「国鉄通勤近郊型電車の性能曲線を読む」

P.97の「中央本線の鳥沢−猿橋間。ここは東京−甲府間で最も速度の乗る区間である。ここを走る〜最高速度が同じで早く着く、といういことは、115系の方が201系より加速が良い、ということになる」

問題と思えた部分

 加速は駅間運転時分とは無関係だが駅間での時間が短い方を加速が良いと称している点と、線形が115系に有利なのにその点を加味して結論を出していない点

それがなぜ問題なのか

 最初の駅間運転時分と加速の問題だが、走行時間と距離を同じと考えた場合、運転曲線での面積が同じであれば良いわけだから、加速が悪くても減速度が高ければ駅の手前まで高い速度で運転でき、結果として同じ時間で走る事ができる。また、駅間での距離が普通に運転して最高速度に到達する長さがあるのなら、電車は一旦惰行運転に入る。そのまま猿橋駅手前まで惰行で走るならともかく、当然途中で再力行しているだろう。
 その場合、時速何キロに落ちて何キロまで再力行したのか、そういう情報が皆無である以上、比較のしようがないのである。
 つまり、駅間の運転時分を構成する要素は加速だけではないと言う事で、「駅間を短い時間で走れる=加速が良い」とは断定できないわけだから、先に次駅に着いたから加速が良いと称するのは問題。

 更に、115系は近郊形電車で歯車比が小さく、201系は通勤形電車なので歯車比が大きくなっている。よって、得意とする速度域が各々異なってくるが、これを見るにはP.99の表2とP.100の表4で速度毎の引張力(B行)を見てもらえればわかる。実際の加速力はF行やG行で確認できる。実際に数値がどうなっているかと言うと、下記に示すが、前者が115系・後者が201系の数値だ。
* 60km/h時 8200kg vs 7400kg
* 65km/h時 7400kg vs 7000kg
* 70km/h時 7000kg vs 6000kg
* 75km/h時 5800kg vs 5000kg
* 80km/h時 5000kg vs 4500kg
* 85km/h時 4200kg vs 3800kg
* 90km/h時 3600kg vs 3300kg
* 95km/h時 3000kg vs 3000kg
*100km/h時 2700kg vs 2500kg
このように、60km/h台からの中速域では115系の引張力の方が201系よりも大きいし95km/hあたりで同等な引張力になる以外は80km/h以上の高速域でも115系に分がある事がわかる。
 これらの引張力比較から、115系は201系に比べて、中速域・高速域が多ければ有利な運転ができる事がわかっていただけるだろうか?


 さて、上図は書かれた鳥沢−猿橋の路線図だが、見ての通り鳥沢を出るとすぐに10パーミルの下り勾配があるため、ここで記事にも書かれたように「速度が乗る」と言う感じで加速していけるのだろう。たぶん両編成ともに下り勾配の途中で制限速度の100km/hに達してノッチオフすると思う。
 で、問題はその後の両者の動きになると思うが、82k120mの地点から11パーミルの登り勾配になっているから、当然のことながら速度は落ちていくことになる。ただ、惰行に関しては編成重量と編成両数が関係してくるだけだから、115系と201系ともほぼ同じ度合いで減速していくことになる。
 その後、速度がある程度落ちたら再力行すると思うが、この領域はたぶん115系が有利な中・高速領域。だから、ここで少し115系が有利になるのは間違い無かろう。
 実際問題、単に駅間距離を速く走れたかどうかだけでは、推測するってのは難しくて、どこで再力行するのかとかノッチオフはどの点なのかとか、ブレーキはどこからどうやってかけるのか等の情報が無いと、なかなか比較なんてできやしない。
 ただ、この路線図を見て感じたのは、115系が不利な低速部分は下り勾配で後押ししてもらい、得意な中・高速領域に早く到達させてもらっている。その後、得意の中・高速領域を活用できる登り勾配が出てくるので、そこで115系が有利になるのかなと・・・要は、115系にとって得意な速度域を多用する比較であった不公平ではないかと言う事。実運転の比較として非常に貴重な記事ではあるが、それを元にして「115系は201系より加速が良い」と結論付ける点が問題である。

こう考えたのかも

 最初の、駅間運転時分が短いから加速が良いと考えてるのは、運転曲線で時間を短くする要素が加速だけだと思っていたからではないか。特に経済運転的に運転曲線を見たことがあるのであれば、必ず「減速度を高めて、ノッチオフ速度を低くとる方が消費電力量的に有利」というのは習うはずだ。まぁ習うというより、そういう記事を多く読んでいれば必ず目にする部分だが、そういう記事などを見たことが無かったのだろう。運転するという実務の考えだけで物事を書いており、それを裏付ける様々な記述を軽視した結果ではないかと思われる。
 後者は、実運転を中心に考えすぎなのと、以前某掲示板でJとれいんの記事に物言いを付けられた事から、115系が201系より加速が良い事を是が非でも示したかったのかなとも思う。いずれにしても、そういう意図で多くの読者が読む記事を不公平に歪曲してもらいたくは無いなと思う。

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